航空自衛隊の中の航空総隊に隷属し、自衛隊機の墜落事故などが発生した際、 その機体・乗員の捜索、救助活動を主たる任務とする一方、救助要請(災害派遣要請)にも対応し直ちに活動を開始する『航空自衛隊航空救難団』。
その救難錬度の高さから「最後の砦」と形容される。
航空自衛隊 航空救難団 那覇救難隊
那覇救難隊が所在する那覇基地は、四方を広大な海に囲まれた沖縄本島の南西部に位置し、
刻々と変化する世界情勢の中にあって、日本の南西防衛の要として重要な役割を担っている。
那覇基地には航空自衛隊のほか、陸上自衛隊、海上自衛隊も混在しており、
県内には在日米軍基地も多数駐留しているという地域的特性もある。
このような防衛の最前線で活動する那覇救難隊を取材した。
航空救難団より提供画像
那覇救難隊の特色
今回はパイロットの井上3佐、救難員の二階堂曹長、澁谷1曹の3名にお話を伺った。
近年、緊張が高まる南西諸島地域において、那覇救難隊が果たす役割もまた極めて重要になってきている。日本全国どこの部隊にあっても任務の重要度に差はないが、それでも安全保障の最前線にあるこの基地で任務にあたる隊員達からは独特な緊張感を感じさせられる。
ここでの訓練で多いのはもちろん洋上訓練だ。海での訓練場所には事欠かず、本島南西及び東沖などで十分な訓練を行うことができる。反面、近隣に山岳訓練を行える場所がないので訓練を行いたい場合は他救難隊と調整し、山岳地がある救難隊へ赴き実施する。このように交差訓練を行うことで不足する訓練を補っているという。
そして、那覇救難隊の大きな特色といえば、やはり米軍との交流があることだろう。(コロナ禍以前には)在日米軍と年に一回の日米共同訓練を行っており、それ以外でも日頃から部隊間、隊員間でコミュニケーションを図る工夫がされている。これは有事の際に備えた任務の延長であるとも言える。井上3佐は「今、社会は大きな変化を求められている時期であり、これまで以上に米軍と自衛隊の相互運用能力の向上は不可欠だと思っております。そのためには円滑で細やかな意思疎通ができることがとても重要だと感じております。」と語ってくれた。
最近では2018年6月11日に発生した航空救難に準じた災害派遣で、米軍嘉手納基地所属のF-15Cイーグル戦闘機が沖縄本島南部の洋上に墜落、パイロットは脱出し那覇救難隊がこれを無事救助したという事例があった。日頃の交流の積み重ねにより、このような時にも即座に対応することができる。
取材のため格納庫内のスペースに並べられた救難資器材
ひとつひとつ丁寧な説明が続く(水難救助用ドライスーツ)
それぞれの思い
那覇救難隊クルーはそれぞれどんな思いで任務にあたっているのか―。
・井上3佐(救助機UH-60J操縦士)
元々F-15戦闘機のパイロットだった井上3佐。それまで救難隊に救助される側だったが、戦闘機を降りた後はその恩返しをしたいと思い救難隊の回転翼操縦士となる。今は救助する側として空を守っている。パイロットとして心がけていることは、とにかくエラーを起こさないこと。不測の事態にも冷静沈着に判断することが大事だと言う。
パイロットを目指すきっかけとなったのは、小学生の頃、陸上自衛官だった父に自分が日本を守るために何ができるかと聞いたら戦闘機パイロットという職業があると教えられ、その道を目指した。
・二階堂曹長(救難員)
救難教育隊で教官を長く勤めた二階堂曹長は、あえて厳しい環境で仕事をしたくて自衛隊に入隊した。しかし最初に務めた職種では自分が求めていた厳しさは感じられず退職も考えた。その時、上司に相談したら救難員という職種があることを知らされ興味を持ち、すぐに選抜試験を受けた。試験には一発で合格し、救難教育隊で過ごした1年間で人生が変わった。自分が求めていた厳しさがそこにあり、救難員という仕事が自分の天職だと感じた。自分が教官になってからは、若い隊員達にもあえてその厳しさを課した。それは、自然の中では一切容赦してくれない苦難があり、その苦難を模擬し伝えてあげることが教官の役目だからだと言う。苦しい時、あと一歩、あと半歩頑張ることができればそれを乗り越えることが出来る、ということを何とか若い隊員にも伝えていきたいと強く語る。
・澁谷1曹(救難員)
秋田分屯基地で救難隊の整備員をしていた時、救難員を間近に見て興味を持った。その後救難員の先輩の勧めで救難員の選抜試験を受験。2度失敗したが、負けず嫌いの性格が手伝って3回目の試験で合格。勧めてくれた先輩と喜びを分かち合った。那覇に転勤を希望したのは、ここで自分のスキルを上げ、リーダーとしての技能を養い、いずれは自分が教える側となってその技能を後輩に継承していきたいという強い思いから。那覇救難隊には、相談するとすぐに的確なアドバイスをくれる頼れる先輩が多いので転勤してきて良かったと語る。
取材に応じて下さった救難隊クルー(左から井上3佐、二階堂曹長、澁谷1曹)
フライトが終わって機体が無事に帰ってきてくれることにやりがいを感じる整備員達。
裏方である彼らの働きがあってこそ搭乗クルーも安心して任務に赴くことができる。
(左から山口整備小隊長、加藤曹長、黒土3曹)
隊員一人一人が国防、人命救助という任務に自信と誇りを持ち、同時にあらゆることに謙虚に望んでいる姿勢が印象的だった。
これからも那覇救難隊の活躍に期待したい。
航空自衛隊 航空救難団 那覇救難隊の皆さま、取材へのご協力ありがとうございました。