航空自衛隊の救難任務に携わる隊員は、アクチャル・ミッション(実任務出動)のことを簡略化して、
アクチャル(アクチュアル)又はミッションといいます。
ここでは実際の任務出動の経験から学び取った事などを発信し、
日々救助活動に邁進されている皆様の一助にしていただきたいと思います。
元航空自衛隊メディックK
元メディックの実任務出動の記録
アクチャル06.<小型ヘリコプター乗員の捜索>
小型ヘリコプターが消息を絶った。
原生林の中に機体が埋没している可能性が大きいとの情報を受け出動。
単調な走査視線の繰り返しは長時間におよんだ(昭和63年10月)
【遭難情報】
昭和63年10月9日午後、長野県松本空港を離陸し東京ヘリポートに向かった小型ヘリコプター(乗員1名)が山梨県大月市にかかる笹子トンネル付近で目撃されたのを最後に消息を絶った。
機体の色は白に赤系統のストライプが入っている。機体の高さは約3m、幅1.5mと小さい。原生林の中に埋没している可能性が大きい。との情報であった。
【出動要請】
百里救難隊に災害派遣の出動要請があったのは小型ヘリが消息を絶ってから約24時間後の10月10日午後、私が捜索機に搭乗し出動したのは10月11日早朝であった。この時点で消息を絶ってから既に40時間以上が経過しようとしていた。
【第1回目捜索】
捜索エリアは国道20号線よりも北側の丹沢山系と秩父山系が連なる場所であり、所々紅葉が始まっていた。この為、遭難情報による機体の色と紅葉した樹木等の色が酷似しており識別は困難を極めた。小型ヘリコプターの墜落現場を示す兆候らしき物(樹木のなぎ倒された跡等)を発見する度に捜索機を旋回させて確認し、捜索機での細部確認が困難な場合には、近くのエリアを捜索している救助機を「兆候らしき物」の発見現場に指向させ確認行動をとりながら捜索を行ったが発見することは出来ず、11:00頃遭難現場に近い入間基地へ燃料補給と昼食のため一時帰投した。
【テレビ放映】
入間基地食堂で昼食を摂りながらテレビに目をやると、海上自衛隊の潜水艦「なだしお」と民間遊漁船の衝突事故での船上接客係による救助証言に続いて「小型ヘリコプターの捜索に航空自衛隊も加わり懸命の捜索活動を続けているのに未だに発見することができない。」との放映がされた。これを見た瞬間、生存し救助を求めている小型ヘリコプター乗員の姿と船上接客係の証言がリンクし、一刻も早く発見しなければと気合が入った。
【第2回目捜索】
12:00頃入間基地を離陸し国道20号線よりも南側の捜索エリアと笹子トンネル周辺の捜索に入った。エリアの状況は第1回目捜索と変わらず紅葉が斜面に広がっている。更に、昼食後の満腹感から来る周期的な睡魔が加わり苦戦を強いられた。約2時間経過した時、機長から「捜索席を左(救難員席)右(機上無線員席)交代せよ」との指示があった。素早く交代すると、今まで左側のみに傾いていた姿勢が逆になり開放的に感じられ睡魔は徐々に去り気分をあらたにして捜索に臨むことができた。しかし、このエリアからも発見することはできなかった。(14:30頃)
【当該機「らしき物発見」】
捜索に進展が見られないまま第2回目のエリア捜索を終了し、機長判断により笹子トンネルを中心とする重点捜索へ移行した。再び機長指示により捜索席を交代し重点捜索を開始してから約1時間、中央高速道路の笹子トンネルから約2マイル地点(大鹿山山頂)付近の鉄塔から約0.5マイル東側の斜面を飛行した時、ほんの一瞬ではあったが原生林の小さな切れ目と樹木上部が不自然に折れているのを発見した。直ちに「らしき物兆候あり」とのコールをするとともに、レフトターンで確認誘導飛行に入ったがロスト(見失う)してしまった。しかし、副目標として鉄塔とその東斜面を概ね把握していたのに加え、操縦士が「らしき物兆候あり」のコールを聞いた瞬間に航法機器(ドプラー)にポジション入力をしていたので再度の確認誘導飛行は容易であった。
【当該機確認】
私は、ヘルメットを捜索窓に押し付けるようにして再度捜索機を誘導し原生林の小さな切れ目をのぞき込んで見るとなぎ倒され樹木の枝がトンネル状にえぐり取られている奥に、白く比較的原型をとどめて横転している小型ヘリコプターらしきものが見えた。機長に報告するとそのまま左旋回でホールディングパターン(現場上空の確保)に入り今度は捜索クルー全員で確認した。
【県警ヘリコプターの誘導】
捜索機からの捜索では、当該機の細部確認と遭難者の生存確認が困難なため近くで捜索活動をしていた警視庁及び県警航空隊のヘリコプターを無線により現場へ誘導し確認を依頼した。15:40県警ヘリコプターから「当該機の機体番号下三桁917を確認した。」「当該機に間違いありません。」との連絡を受けクルー全員から歓声があがった。
【警察関係者の空輸及びホイスト降下】
別エリアの捜索中だった救助機は当該機発見と同時に警察から遭難現場への関係職員空輸(ホイストによる人員吊り降し)の要請を受け、これを実施し任務を終了した。
なお、操縦者の1名は残念ながら操縦席で遺体となって発見された。
【教訓】
捜索は単調な走査視線の繰り返しを長時間同じ姿勢で実施せざるを得ない。身体的、精神的にも疲労・ストレスが蓄積し捜索効率は時間とともに低下する。更に、昼食後は睡魔も加わり苦戦を強いられる。そのような場合には、捜索席の交代、クルー間で捜索の途切れを調整したうえで2~3分間目を休ませてリラックスするなどの着意も必要であると思われる。目で感知しても脳で感知しなければ発見には繋がらず見逃してしまうことが多々ある。
※この企画は、実際に起こった航空救難、災害派遣 事例を題材としておりますが、登場する人物、地名、団体名などは架空のものであり、実在のものとは一切関係がありません。
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