航空自衛隊の救難任務に携わる隊員は、アクチャル・ミッション(実任務出動)のことを簡略化して、
アクチャル(アクチュアル)又はミッションといいます。
ここでは実際の任務出動の経験から学び取った事などを発信し、
日々救助活動に邁進されている皆様の一助にしていただきたいと思います。
元航空自衛隊メディックK
元メディックの実任務出動の記録
アクチャル02.<遭難者はサメに食べられたのでは!?>
遭難者はサメに食べられたのでは!?」
座礁した漁船から乗組員5名の救助、
その海域はサメの有数な生息海域であった。(昭和5×年某月)
【救難情報】
「K県Y島の海岸付近に漁船が座礁し乗組員5名が救助を求めている。負傷者がいる模様」との情報を入手した。
【救難員プロファイリング(救出行動予測に基づく救助の腹案)】
当該船発見後、救助機を風に正対させ、船橋にアプローチ(接近)する。メディック1名をホイストにより降下させ遭難者の確保、応急処置及び現場状況の確認をする。その後、ホイストフックにボイアントスリングを装着して船首又は船尾から遭難者を吊り上げて機内へ収容する。服装はウェットスーツ着用とし、空地(船上)間の連絡は携帯無線機又は手信号による。救急医療キットは携行するが負傷の程度によっては応急処置よりも救助機への収容を優先させる。
【捜索・発見】
救難情報を入手してから約5分後、災害派遣出動命令が発令され捜索機・救助機(K氏搭乗)各1機がN飛行場をほぼ同時刻に離陸した。約50分後、機速の速い捜索機から「遭難現場到着、当該船らしき物発見、上空でサークリング中」との無線連絡を受けた。捜索機から遅れること約10分、遭難現場海域に到着した救助機も、上空でサークリングしている捜索機の中央付近に座礁している船を発見、徐々に高度を下げながらダイレクトで座礁船へのアプローチを開始した。
座礁船の1.5マイル手前まで接近すると、左舷に傾いている船体の中央甲板付近で「両手を逆ハの字」のように広げて動いている黒っぽいものが見えた。距離があるため遭難者が手を振って救助を求めているようにも見えるが、何か不自然な動きだった。機長に対し、「12時半の方向に遭難者らしきもの発見」とインターホン(機内通話装置)で報告すると、機長からは「ラジャー(了解)」「でも何か変?」との応答があった。更にアプローチを継続し、座礁船の約0.3マイル手前付近まで接近して遭難者でないことを確認できたが、それが何者なのかまでは確認できなかった。ホバリングに移行し当該船直上に到着してやっとそれを確認することができた。なんと二匹の巨大なサメが、破損した魚水槽に頭を突っ込んで、中の魚にむしゃぶりついている最中であった。手を振っている様に見えたのは2匹のサメの尻尾であった。
遭難者を発見するため船橋までホバリングで小移動をしたが、姿は無く、あったのは散乱した黒いビーチサンダルと長靴の片方のみだけだった。ひょっとして、海に転落しサメに食われてしまったのではあるまいかと一瞬考えてしまった。
【救助】
約1~2分間の沈黙の後、メディック1名をホイスト降下させるためヘリの態勢を整えようと一旦ブレーク(離脱)しようとしたその瞬間、5名の乗組員が突然、船橋から船首に向かって手を振りながら次々に出て来た。最後に出てきた1名は右腕を負傷しているらしく元気な乗組員に抱きかかえられるようにして出てきた。救助機は直ちにブレークを取りやめ、メディック1名が船首にホイスト降下した。<br> 降下したメディックは遭難者を確保し、負傷者に対する応急処置(右前腕部の副木固定)を実施した後、吊り上げ要領について説明したが言葉が全く通じなかった。苦肉の策として、救助具を遭難者に見せて直接装着、身振り手振りで説明し、元気な遭難者4名はボイアントスリングで、負傷している遭難者1名はバスケットスリングをそれぞれ使用して無事救助した。
【救難員収容時の海面状況】
当該船の破損した漁水槽から流れ出た魚が救助機のダウンウォッシュの影響で左舷側周辺に散乱した上、波立ちの一部は泡となって独特な海面状況を作り出していた。良く見ると何十匹もの大小のサメが周辺に群がり、魚を捕食している姿が見えた。また、2~3匹の大型のサメは異常興奮して中央甲板にある破損した魚水槽のところまで跳ね上がりむしゃぶりつこうとしていた。
【教訓】
根拠は不明であるがサメはヘリのダウンウォッシュがあるところに集まる習性があるということを聞いていたが、実際に身を持って経験しその習性が正しい事を実感した。
※この企画は、実際に起こった航空救難、災害派遣 事例を題材としておりますが、登場する人物、地名、団体名などは架空のものであり、実在のものとは一切関係がありません。
「ザ・アクチャル」を読んで感じた事、疑問に思った事、K氏へ聞きたい事など、
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